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​ようこそ院長の研究室へ

​研究歴

2000-2004年

 滋賀医科大学大学院

2006-2008年

 金沢医科大学病院 生活習慣病センター

2008-2010年

 米国ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター

2010-2022年

 金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学

​ 金沢医科大学 総合医学研究所 先制分子食料科学研究部

2022年-

 和歌山県立医科大学 腎臓内科 非常勤講師, 博士研究員

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​院長の
研究について

​糖尿病性腎臓病は、糖尿病の合併症の一つですが, 1998年以降, 日本では, 糖尿病性腎臓病が, 末期腎不全から透析療法を始めなければいけない原因の第一位となっています(全体の40数%)。実際, 毎年全国で, 16,000人以上が糖尿病性腎臓病により透析療法の開始を余儀なくされている現状にあります。私が大学を卒業したのが1996年ですので, まさにその時代から, 糖尿病性腎臓病患者さんが急増していきました。医師になった後も, 糖尿病性腎臓病から透析になった患者さんを数多く目の当たりにしてきましたが, その大きな理由として, 糖尿病性腎臓病に対する有効な治療法が確立されていなかったことが挙げられます。そういった中で, 糖尿病性腎臓病から透析になる患者さんをなくしたいという思いから, ”糖尿病性腎臓病の病態解明と新規治療法の開発”を自身の研究テーマとして, 研究活動に取り組み, 現在に至っています。これまで, 滋賀医科大学, ジョスリン糖尿病センター, 金沢医科大学において, この分野の研究の世界的リーダーである先生方のご指導・ご支援を受け, 一貫して同研究テーマで活動し, 研究成果を発表できたことは, 私にとっての貴重な財産となっています。​研究内容としては, 2000年当初は, 酸化ストレスのメカニズムに関する検討をしていましたが, 2010年以降は, 食事療法, つまり, ”医食同源”, ”腹八分目医者いらず”と抗老化の視点からの検討を行っています。

​以下は、これまでの私の行ってきた研究成果の一端となりますが, ご興味を持っていただければ幸いです。

糖尿病ではなぜ腎臓が悪くなるのか?(自身の研究成果から)

糖尿病の腎臓では酸化ストレス(さびつき)が増加→腎臓が傷む, また酸化ストレスは細胞老化とリンクしていることなどを報告

主な活性酸素種の産生源

  • NADPHオキシダーゼ・・・高血糖状態によるプロテインキナーゼCの活性化が関与

  • ミトコンドリア酸化ストレス・・・抗老化遺伝子サーチュインの活性低下, オートファジーの低下 etc.​→​細胞老化と密接に関係している

​抗老化遺伝子サーチュインとは?

江戸時代(1713年)に儒学者である貝原益軒が84歳の時に書いた養生訓には, 健康の維持のためには, 食べ過ぎを控えること, つまり腹八分目を心掛けることが説かれています。2000年以降, この腹八分目が寿命延長に関係していることが科学的に明らかとなってきました。”腹八分目医者いらず”のメカニズムの一つとして, 抗老化遺伝子サーチュイン1が同定されました。そもそもサーチュインの存在意義は何かと考えますと, おそらく太古の昔は, いつ食事にありつけないか分からないという危機に瀕していたわけですが, 飢餓状態になっても, 細胞活動を節約して, その間に細胞を若返らせて, 食事にありつけるまで生き延びようとする, そういった役割を果たしているのではないかと推察されています。これが抗老化遺伝子と呼ばれる所以です。現在は飽食の時代であるため, サーチュインが働く場面が少ないのではないでしょうか?なお, サーチュインですが, 1~7まで同定されておりますが, 私たちは, その中で, サーチュイン1と3に着目してきました。

ヒトでもカロリー制限をするとサーチュイン1が活性化する?

私たちは, 以前, 肥満男性4名に対して, 必要カロリー量の75%の食事(腹七分目)を7週間摂取して頂き, 白血球中のサーチュイン1の活性化を評価する研究をしました。その結果, 腹七分目の食事で, サーチュイン1が活性化されることを確認することができました。また, カロリー制限後の血液中にサーテュイン1を活性化する物質が存在する可能性があることも分かりました。(Kitadaら. BBA. 2013)

​サーチュインと糖尿病性腎臓病

​サーチュイン1

糖尿病+肥満ラットの腎障害が30%カロリー制限(腹七分目)により改善すること, カロリー制限は糖尿病腎で低下したサーチュイン1の発現を回復することで腎保護効果を発揮することを見出しました(Kitadaら. Exp Diabetes Res. 2012)

サーチュイン3

​このサーチュイン3は, ミトコンドリアに存在しており, ミトコンドリアで生じる活性酸素を消去する抗酸化酵素の活性に重要な役割を果たしています。私たちは, 以前, 糖尿病+肥満ラットの腎において, サーチュイン3の活性低下による抗酸化酵素活性低下からのミトコンドリア酸化ストレスが生じていることを報告しました。またサーチュイン3の活性低下の原因として、その活性化に必要なNAD+を消費するCD38という分子が糖尿病腎で増加していることを明らかにしました。(Ogura and Kitadaら. Redox Rep. 2018)(Ogura and Kitadaら. Aging. 2020)

​今後、サーチュイン1や3を活性化することが糖尿病性腎臓病の治療標的となるのではないかと考えております。

オートファジーとは?

オートファジーとは, ギリシャ語の「ファジー(食べる)」に「オート(自ら)」を組み合わせた造語で, 自食作用と呼ばれます。このオートファジーは, 細胞が飢餓状態に陥ったときに自らのタンパク質をアミノ酸に分解して, エネルギー源にしたり, 新しいタンパク質を作るための材料に用いるために一役かっていると考えられています。また, 飢餓状態のみならず, 普段から, 老化や代謝の過程で傷んだミトコンドリアなどの細胞内器官や細胞内にたまるタンパク質のゴミ, 余分な脂肪滴などを分解して, 細胞を若返らせる働きもあります。つまり, オートファジーの機能は, 細胞が自身の中で自給自足とリサイクル活動をして, 傷んだ部分を修復しながらアンチエイジングに頑張っているイメージです。

 オートファジーの働きの低下は, 細胞内に傷んだミトコンドリアや異常なタンパク質のごみなどが溜まることで, 酸化ストレスや炎症, また細胞機能の低下を来し, いわゆる細胞の老化に至ると考えられます。近年、加齢関連疾患としての糖尿病, 腎臓病, 心臓病, 動脈硬化, サルコペニア肥満, 癌, アルツハイマー型認知症の病態形成にこのオートファジー機能の低下が密接に関係していることが明らかになってきました。(Kitadaら. Nature Rev Endo. 2021)

オートファジーは、なぜ低下するのか?・・・食事との関係

オートファジーの働きは, 栄養の状態によって活性化されたり低下したりしています。つまり, 栄養素が少ない時には, 活性化し, 栄養素が豊富のときは, その活性化が抑制されることで細胞の成長や修復を調整しています。別の言い方をすると, 日中食事したり身体活動をしている時には, 細胞機能は活発になり細胞は成長していくが, 夜間食事をしない時には, 日中の活動で傷んだ細胞内器官を修復したりと, 体内に入ってくる栄養素とオートファジーがうまくリズムを刻んでいると考えられます。もし1日中だらだら食べっぱなしでいると, オートファジーがしっかりと働かないため細胞の傷みが修復できず, 老化が促進されます。一方, 空腹時間をしっかりと持つようなメリハリのある食事習慣では, オートファジーがしっかりと働く時間ができ, 傷んだ細胞が修復され, アンチエイジング効果を発揮すると考えられます。また空腹時には, 上述したサーチュインも活性化されますが, サーチュインとオートファジーは相互的に関連しているとの報告もあります。空腹はつらいと感じずに, 空腹の時ほど、体内でアンチエイジングが起こっているんだと意識してみるのもいいと思います。

糖尿病性腎臓病の食事療法・・・低蛋白質とオートファジー

カロリー制限がサーチュイン1の活性化を介して, 糖尿病性腎臓病を改善する可能性については上述しました。

カロリー制限は, 炭水化物, 蛋白質, 脂質を全て均等にそれらの摂取を減らすということになりますが, これまで行われてきた多くの基礎研究により, カロリー制限の寿命延長(アンチエイジング)効果は, 蛋白質(アミノ酸)制限を介していることが報告されています。

 腎臓病の食事療法と言えば, 蛋白質制限(低蛋白質食)と考えられてきましたが, この蛋白質制限の腎保護効果は, アンチエイジング効果を介して発揮されるのではないかという発想に至りました。上述したオートファジーは, アミノ酸によるmTORC1という分子の活性化により抑制されることが知られていましたので, 糖尿病+肥満ラットを用いて, 1) 糖尿病腎においてオートファジーがどうなっているか?, 2) 低蛋白質食で糖尿病腎のオートファジーは活性化され, 腎保護効果を発揮するか?について検討しました。その結果, 1) 通常食を食べた糖尿病ラットの腎臓では, mTORC1の活性化とオートファジーの低下を認めること, 2) 低蛋白質食は, mTORC1の活性化の抑制とオートファジー機能の回復を示し, 腎臓の傷害を改善することが明らかとなりました。(Kitadaら. Diabetologia. 2016) さらに, 低蛋白質食のアンチエイジング効果は, メチオニンというアミノ酸の制限を介しているということが報告されていましたので, 先ほどの糖尿病ラットで, 低蛋白質食にメチオニンだけ, 通常食と同じ量になるように添加した飼料を作成し検討しました。その結果, 低蛋白質食にメチオニンを添加すると, 低蛋白質食でみられたmTORC1の抑制とオートファジーの活性化に対する効果が消失することを見出しました。(Kitadaら. Aging. 2020)

週4日だけの低蛋白質食でも有効?

糖尿病・肥満ラットを用いた実験により, 月~木は低蛋白食, 金~日は通常食としても, 低蛋白質食の腎保護効果を示しました。毎日の低蛋白質食は, 患者さんにとって, 心理的にもかなりの負担になり直的な継続が難しいことが現状です。今後ヒトにおける検討は必要ですが, 週末だけのプチ低蛋白質食にも腎保護効果があることが明らかになれば, 低蛋白質食が必要な患者さんにとっての福音になるのではないかと思います。(Kitadaら. Nephrology. 2017)

糖尿病性腎臓病の食事療法・・・低蛋白質食→健康食パターンへ

低蛋白質食は, 全てのアミノ酸の制限になため, 蛋白質以外の他の栄養素(炭水化物や脂質)を十分に取らないと, 腎臓を守る前に, 栄養不良となり筋がやせたり, 全身の不具合になってします。また、毎日の低蛋白質食は, なかなか継続することが難しく, 患者さんの心理的負担が大きいことも事実です。

 糖尿病ラットの実験では, 低蛋白質食の腎保護効果はメチオニン制限を介している可能性があることは, 上述しました。つまりメチオニン摂取量の制限が有効であるかもしれないということです。実際, 様々な基礎研究においてもメチオニン制限に寿命延長(アンチエイジング)効果があることが示されています。メチオニンを制限するためにはどうすればいいのでしょうか?メチオニンは、植物性食品に比べ, 赤肉を含む動物性食品に多く含まれているため, 植物性の食品をメインとした食事にすることが, メチオニン制限につながると考えられます。つまり, 摂取する蛋白質の量の制限から, 摂取する食材の種類を選ぶ, 蛋白質の質を重視した食事にすることが効果的かもしれないということです。植物性食品をメインとした食事は, いわゆる健康食パターンとして認識されている日本の精進料理, ベジタリアン食・ビーガン食が近いのではないかと思います。また, 世界的な健康食パターンである地中海食や高血圧を予防するDASH食, 1970年代の日本の家庭食(塩分には注意だが)も広い意味では近いかもしれません。肉の代わりとなる大豆ミートなどをうまく活用することもいいかもしれません。

 健康食パターンが, 腎保護効果を有するかについては, 今後ヒトにおける詳細な検討は必要ですが, 心血管疾患の予防や全死亡に対する危険を低下することは明らかにされていますので, 腎臓病患者さんにとって意味があると思います。

健康食パターン

赤肉・加工肉などの動物性食品↓, 植物性食品↑, 野菜・果物↑, 食塩↓, 砂糖や清涼飲料水↓, 乳製品とるなら低脂肪 ただし, 腎不全でカリウム制限が必要な方は生野菜・果物の取り過ぎには注意

糖尿病性腎臓病の運動療法

以前は, 腎臓の働きが悪い患者さんには安静をお願いしていた時代がありましたが, 近年は, 積極的な運動療法が腎臓の悪化を防いだり, 心血管を含む全身の健康に有効であるため, 個々に応じて行うことが推奨されています。しかし, 運動が腎保護効果を示すメカニズムは十分に解明されていなかったため, 私たちは, 糖尿病・肥満ラットを用いた検討を行いました。その結果, 運動は, 腎の酸化ストレス・炎症を軽減すること, またオートファジー機能を良くすることを見出しました。(Monno and Kitadaら. Antioxidants. 2021) 運動すると, 骨格筋から何らかの因子(マイオカイン)が分泌され, 腎を含む全身の細胞に何らかの作用を及ぼしていることが考えられますが, 今後, その因子が同定できれば, 運動療法の代わりとなる薬が開発できるかもしれません。

 患者さんに対する運動療法は, 個々の状態に応じて, 頑張りすぎず, 心地の良いレベルで, 有酸素運動(ウォーキングなど)とレジスタンス運動(筋肉の運動)を組み合わせるメニューで行うことが重要です。継続は力なりです。

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